始めに
パソコンが病院情報システムのワークステーション(端末という言葉は今日の高性能なパソコンを指す言葉として不適切です)として病院内の各所に配置させるようなり、それらのパソコンのモニタの上で簡易に医用画像を参照したいというニーズが高まってきました。
一方、医用画像情報通信規格である DICOM の浸透により、今日新たに導入される画像診断装置の殆どはDICOM規格による画像のディジタル出力をサポートしています。DICOM規格の画像データは一般的な画像データフォーマットと異なっており、専用のソフトウェアなしには表示することすらできません。DICOM画像を表示/処理することができる画像処理ワークステーション(ハード込、あるいはソフトだけ)を放射線部門の読影室に数台から十数台導入することは可能ですが、大規模な病院の全ての診察室に数十台から数百台を導入することは現実的ではありません。
そこで、DICOM画像を一般的なパソコンに表示させる簡易な方法の一つとしてWWWを用いる試みが多くなされています。しかし、それらのシステムの多くは機能は画像の簡単な表示にとどまり、画像処理ワークステーションのような性能や機能が備えられていないか、あるいは、専用のソフトウェアをインストールして Web ブラウザの窓の中に画像処理ワークステーションを押し込んだものかいずれかです。
このプロジェクトは、plug-in, ActiveX, Java Applet 等の Web ブラウザを拡張(改造)する仕組みを一切用いる事無く、Web ブラウザ上に画像処理ワークステーションを実現しようという(無謀?)な試みです。しかし、結果として実際には無謀なものとはならず、機能や性能面においても十分なシステムを構築する事に成功し、それどころか、このアーキテクチャのメリットにより画像処理ワークステーションでは実現できないレスポンスを実現してしまいました。
2.画像処理ワークステーション
2.1.画像処理ワークステーションの機能
画像処理ワークステーションの持つ機能については、(A) 画像の単純な表示、(B) 画像の2次元処理と処理結果の表示、計測、(C) 画像の3次元処理と処理結果の表示、計測があります。これらのうち、(B)〜(C)の機能は、画像処理について専門的な知識が必要となる高度な機能であり、画像検査部門の専門家が用いる機能です。一方(A) は基本的な機能でありどの様な利用者にとっても重要な機能です。
2.2.画像表示の為の画像処理
画像の「単純」表示と言っても、医用画像を表示するには若干の画像処理が必要です。
・画像の拡大/縮小処理
画面のレイアウトに合わせて画像を表示するためには拡大/縮小等の空間方向の処理が必須です。この処理は画像データのピクセルの空間からモニタ上のピクセルの空間への写像となります。整数の拡大/縮小時は1対1の単純な間引き処理でも特に問題はないですが、実数値をもつような率の時はN:1の適切なリサンプリング処理が必要になります。図1は拡大率が1.2倍の際のリサンプリングの例でです。この場合拡大された画像のピクセル値はオリジナルの画像の空間の近傍の4点のピクセル値の重み(距離に反比例)付きの平均値となります。・階調処理
1ピクセルあたりに1024(10-bit)〜65536(16-bit)階調をもつ画像を通常のCRTの256(8-bit)階調に変換する階調方向の処理が必要になります。DICOM規格によるとこの処理は図2の様になるとされています。
Modality LUT変換とはデータのピクセルの値をモダリティ特有の値から有為な値への変換です。主にX線CT画像でピクセル値をHounsfield numberに変換します。VOI(Value Of Interest) LUT変換はピクセルの値を表示や処理に有為な値に変換します。通常は図3の様な単純な線形変換で、所謂「ウィンドウ/レベル」と呼ばれる処理です。
Polarityは単純な反転処理で、Perception 変換はCRTやフィルムに現われる輝度/濃度を厳密にコントロールするための変換でGamma補正等とも呼ばれます。
これら一連の処理は、画像処理ワークステーションの表示処理だけでなく、画像をフィルムに潜像する際に行われている処理です。
2.3.画像処理ワークステーションとWWWのアーキテクチャの違い
画像のファイルからモニタに表示されるまでの過程について、画像処理ワークステーションとWWWのアーキテクチャの違いについて図4に示します。